Share

12話 頬へのキスとミリアの権威

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-06-26 07:00:21

 ん? 何この学校で恐い担任が朝、教室に入ってきて静まり返るのと同じ感じは……。見た目は可愛らしい美少女なのに? そんなに、お貴族様は権力があるのかな? あ。警備兵って、もしかして領主兵だからかな? それでミリアは領主の娘で雇い主の娘だから?

「すみません……ミリア様」

 お偉いさんが恐縮したように呟いた。

「ふんっ! 1日に、わたくしの大切な方を2回も捕らえるなんて、わたくしに対しての嫌がらせなのかしら……」

 ミリアは顔を曇らせ、明らかに不機嫌な様子で言った。その声には、怒りの感情が込められている。

「そのような事は決してありません! どうかお許しを……」

 お偉いさんは顔面蒼白になり、必死に弁解する。

「まぁ……俺みたいな子供がアクセサリー店に入ったから怪しまれて当然だよな」

 俺は場を和ませようと、軽い調子で言った。

「何を仰っているのかしら? わたくしだって、たまにですがアクセサリー店に入りますわよ?」

 ミリアは、きっぱりと言い返してきた。

「それはミリアがお金持ちだって皆が知ってるからでしょ? 俺みたいなお金が無さそうな格好で入ればね……頭が良いミリアなら分かるんじゃない?」

 俺がそう指摘すると、ミリアの表情が一瞬和らいだ。しかし、すぐにまたご立腹になった。

「それでも捕らえた兵士は許せませんわっ。もぉ!」

 ミリアは足を踏み鳴らし、不満を露わにする。連れてきた兵士の顔色が悪くなって座り込んでしまった。その体は震えている。

 ん? 死ぬわけでも無いのに、そこまで怯える事なのか? それとお偉いさんも顔色が悪くなってるけど? 何か罰でもあるのか?

 そこまで怯える意味が分からないけど俺のせいなんだよな。はぁ……あまり気乗りしないけど……。

「えっと……ここの責任者って、あなたですか?」

 俺は総隊長に尋ねた。

「はい。ここ町の警備兵の総隊長です」

「じゃあ……皆に合図をするまで目を閉じて貰っても? お願いではなく、命令でお願いします」

 俺は少し強めに言ってみた。

「ユウヤ様? わたくしもですか?」

 ミリアは、きょとんとした顔で俺を見上げた。

「……そうだな……。ミリアも目を閉じててくれる?」

「は、はい……わかりました」

 ミリアは素直に頷き、ゆっくりと目を閉じた。さて、どうしたものか……。

「皆、作業を止め目を閉じる事を最優先しろ! これは命令だぞっ! 従わぬ者は厳罰に処する!」

 警備兵の総隊長の怒鳴り声が響き渡る。兵士たちは一瞬戸惑ったものの、総隊長の真剣な表情と声色に、次々と目を閉じていく。その場に静寂が訪れる。

 皆が目を閉じたのを確認した。俺はミリアの、ぷにぷにっとしてそうな頬にそっとキスをした。見た目通りにプニッとした感触で柔らかく、スベスベして甘い良い匂いがしてきた。

「きゃっ♡ わぁ……♡ うふふ……っ♪」

 ミリアは小さく声を上げ、頬を紅潮させて身をよじる。その様子は、まるで花が綻ぶようだ。

「ミリア様! 大丈夫ですか!?」

 総隊長の焦った声が聞こえた。

「大丈夫ですわ♡ 何でもありません。目を閉じてなさい! 問題ありませんわっ!」

 ミリアは、頬は赤いままながらも、毅然とした声で言い放った。その声には、先ほどの甘えた様子とは打って変わって、貴族としての威厳がにじみ出ている。

 俺はミリアの耳元で小声で聞いてみた。

「機嫌は直った?」

「うぅ~ん……まだですわ……えへへ……♪」

 ミリアは顔を赤くしたまま、にこやかに答える。笑顔だし、機嫌は直ってる気がするけど?

「もう一度お願いしますわぁ♡」

 ミリアはさらに甘えた声を出し、俺を見上げてきた。

「はぁ……」

 俺は照れ隠しで、わざとらしくため息をついて、もう一度長めに頬にキスをした。今度は少しだけ、甘い紅茶の香りが口の中に広がるような錯覚を覚えた。一応言っておくけど……前世も含めて女の子にキスをしたの初めてだからね? 前世でも彼女居なかったし……。

 ミリアの肩を掴むと、彼女はビクッと体を反応させ、俺の方へ赤くなった頬を向けるので、俺まで緊張してきた。音を立てないように、唇をミリアの頬に当てる。しばらくミリアの頬の柔らかくスベスベした感触を味わった。

「もう良いでしょ?」

 俺が尋ねると、ミリアは満足そうに目を細めた。

「はいっ♪ とっても満足ですわぁ♡」

 ミリアは機嫌が直り、ニコニコの笑顔になっていた。その笑顔は、まるで春の日差しのように明るい。

「もう目を開けても良いですわよ……はぅ……♡」

 ミリアがそう告げると、総隊長が恐る恐る目を開けた。

「何をされたんでしょうか?」

 総隊長は、怪訝な顔で尋ねてきた。

「目を閉じてと言った意味が分からないのですか? あなたは……! それでも警備兵の総隊長なのですか? まったくっ!」

 せっかく機嫌を良くしてたのに総隊長さんは余計なことを言って……ミリアは再びご立腹だ。総隊長の顔色が、みるみるうちに青ざめていく。

「……失礼しました。秘密の為にですね……」

 総隊長は言葉を濁した。

「許してあげてね?」

 俺はミリアに笑顔で促した。

「ううぅ……はい……」

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   58話 嫉妬心

     ……いやいや、待ってくれ。俺、薬屋やってただけなんだけど?モンスターを倒したのも、盗賊を撃退したのも、たまたま運が良かっただけで――……って、誰に言っても信じてもらえないんだよなぁ。 どうやら、俺がSSS級冒険者になってしまったのは――国王が認め、ミリアが認めたかららしい。その後、王都の冒険者ギルドのギルマスと国王が、「一応、皇帝にも報告しておこう」と連名で書状を送ったらしいんだけど――返ってきた返事は、こうだった。『娘の命の恩人で、冒険者。王国軍が数年かけて討伐できなかったモンスターを、単独で、しかも複数体討伐したんだろう?何が問題なんだ?』 ――逆に聞かれたらしい。 ということで、皇帝にも正式に認められて、俺は“SSS級冒険者”になってしまった。 ……いや、俺、薬屋なんだけど。 冒険者カードも一応持ってるけど、使う予定はまったくない。何とも呆気ない話だ。ちなみに、俺が取得したクラスより上があるらしい。“SSSS級”――四つ星の称号。ただ、これはほとんど話題にすら上がらない。実現があまりにも難しいからだという。条件は――皇帝、そして各国の王が、その者の功績を“相応しい”と認めた場合にのみ与えられる称号。 ……うん、必要ないでしょ。 名誉だけで、特に何か得られるわけでもなさそうだし。入国税?ミリアと一緒にいれば免除されるし。税金?そもそも、そこまでお金に困ってない。俺には、もうこれ以上、何かを求めるものは――たぶん、ない気がしていた。静かに暮らして、たまに誰かの役に立てて、それで十分だ。♢ミリアの提案と募る嫉妬心 リビングにいたミリアに、ふと思いついたように話しかけた。「他の町というか……国も、見てみたいんだけど」 ミリアは優雅にカップを傾けながら、静かに頷いた。「そうですわね……わたくしも、この町には少し

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   57話 店を従業員に任せて他の町へ行ってみたい

    「さて――二人とも、今から働いてもらいますからねっ」「「はいっ!」」 元気よく返事をする二人に、俺は異次元収納の使い方を教えた。空間が歪み、吸い込まれるように物が消えていく様子に、二人は目を見張っている。売上金もその中に入れてもらうようにして、必要なときに俺が補充や確認ができるようにする。 そして――給金の話。「給料は月に一回。初めに聞いた通り、金貨一枚ずつで」 そう言った瞬間、二人はぴたりと動きを止めた。 ……ん?なんで固まってるの?安すぎた?それとも高すぎた?俺が困っていると、デューイがそっと耳元に顔を寄せてきた。「……払いすぎです。店の店員の給金ではありませんよ。それ、王国の役職持ちの給金レベルです」「……あ、そうなんだ」 でも、まあ――「役職付きだった大隊長を雇うんだから、二人はそれで良いんじゃない? その分、しっかり働いてもらうよ。店の護衛や品出しとかね」 俺はニヤッと笑ってみせた。特に理由はないけど、なんとなく言ってみたかっただけだ。女性護衛は顔を赤くしながら「……はいっ」と答え、デューイは苦笑しながら「……了解しました」と頭を下げた。 ――うん、いい感じだ。「では……有り難く頂いておきます。出来ることなら何でもやりますので、何でも言ってください」「……有難う御座います」 真剣な表情で頭を下げる女性護衛に、俺も思わず頭を下げ返した。 ――いや、でもさ。 メイドさん……話が違うんですけど……?金貨一枚って、そんなに高かったのか?こっそりミリアに聞いてみると、どうやら帝国と王国では、貨幣価値に多少の差があるらしい。 ――それ、先に説明しておいてよ。 まあ、今さら言っても仕方ないか。お金を扱う以上、信用してい

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   56話 国王公認の薬屋と新たな決意

     ――許可証だけじゃなく、看板まで……。これがあれば、誰が見ても“王国公認”の店だと分かる。下手に絡んでくる連中も、さすがに手を引くだろう。「そうだ。他にも許可証って取った方がいいの?」俺が念のために尋ねると、デューイは即座に首を振った。「必要ありません。この店は、王国の事業として正式に認可されています。よって、商業ギルド・薬師ギルドの干渉も受けません」「……はぁ~、良かった」思わず、肩の力が抜けた。もう、面倒事は勘弁してほしい。静かに、穏やかに暮らしたいだけなのに――この数日で、俺の日常は完全にひっくり返った。薬屋として、平和に過ごしたかっただけなのに。気づけば王族になり、モンスターや盗賊に襲われ、果ては貴族と揉める始末だ。 ――あはは……辞めるタイミング、逃しちゃったかな。正直、うんざりしてた。でも、看板を手にした今――デューイや、ミリアや、あの店を頼ってくれる人たちの顔が浮かんだ。 ……続けるか。俺は、看板をそっと見つめながら、小さく息を吐いた。「よし。じゃあ、もう少しだけ頑張ってみるか」 ――そうだ。 女性護衛とデューイの話し合いの時間、ちゃんと作ってあげないと。「デューイと、今後の話し合いをしてきて良いよ」俺がそう声をかけると、女性護衛は少し気まずそうに視線を逸らし、デューイは「?」といった顔で首をかしげた。そこで、ミリアがふわりと微笑んで一言。「二人の将来の話をしてきても良いわよ」その言葉に、二人は一瞬固まったあと、顔を赤くしながら少し離れた場所に移動し、向かい合って座った。 ――うん、いい感じだ。「デューイが店に来てくれれば助かるんだけどなぁ~」俺がぽつりと呟くと、ミリアが紅茶を口にしながら首を傾げた。「そう

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   55話 王家の紋章と新たな展開

    一通り、重傷者の治療を終えたあと、 俺は店の奥の部屋に戻って、椅子に深く腰を下ろした。 ――ふぅ……さすがに疲れたな。ようやく一息つけると思った矢先、 店の方から騒がしい声が聞こえてきた。怒鳴り声と、人々のざわめき。 外の空気が、ざわざわと波立っているのが分かる。ん?……またお貴族様か? しつこいなぁ……。面倒な予感しかしない。俺はため息をつきながら店の方へ出てみると、 案の定、貴族風の男が護衛と兵士を引き連れて騒いでいた。顔を真っ赤にして、店を指差して怒鳴っている。「おい! 商業ギルドと薬師ギルドの販売許可は取っているのか!?」 ――は?そこまでの許可は……取ってないけど? ていうか、必要なの? そんなに?俺は一瞬、言葉を失った。 ……なんだか、面倒になってきたな。別に、薬屋をやりたくて仕方なかったわけじゃない。 ただ、誰かの役に立てるならって思って始めただけで――俺は、楽しく暮らしたいだけなんだよ。金なら、もう結構貯まった。 この店ごと、国王――義理の父親に買い取ってもらえば、 現金収入も得られるし、バカ貴族に絡まれることもなくなる。 ――それも、悪くないかもな。こいつのお陰で決心がつきそうだわ。俺は、静かに視線を貴族の男に向けた。その目は、怒りというより―― ただ、うんざりしていた。「あ、許可は取ってないですね」俺が正直に答えると、貴族風の男はニヤリと口元を歪めた。「ほぉ~、取っていないのか。では――違法だな。……コイツを捕らえろ」男が護衛兵に指示を出すと、兵士たちがじりじりと俺に近づいてくる。 ――はぁ、やっ

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   54話 新たな一日、開店準備

    しばしの静寂のあと、ミリアがそっと紅茶を口に運び、 俺も、冷めかけたカップを手に取った。 ――さて。そろそろ、店に向かう時間か。気持ちを切り替えるように、俺はゆっくりと立ち上がった。「じゃあ、俺はそろそろ行ってくるよ。 今日から本格的に動き出すし、準備もあるからね」そう言いかけたところで――「わたくしも、ご一緒いたしますわ」ミリアが、当然のように立ち上がった。「えっ? ミリアも来るの?」「はい。ユウヤ様のお店がどのように始まるのか、 この目で見届けたいのですわ。 それに……わたくしも、少しはお役に立ちたいですもの」そう言って微笑むミリアは、すでに外出用のドレスに着替えていた。 ――完全に、行く気満々だったらしい。「……そっか。じゃあ、一緒に行こうか」「はいっ♪」ミリアは嬉しそうに頷き、俺の隣にぴたりと並んだ。こうして、俺とミリアは並んで屋敷を出た。 新しい一日が、静かに、でも確かに動き出していた。病院との軋轢と貴族の乱入朝食を早めに食べて早めにお店に向かうと……うわぁ……。店の前には、昨日から並んでいたらしい人たちがずらりと列を作っていた。 先頭の方なんて、地面に寝転がって順番を待ってるし。 列は通りの角を曲がって、さらに奥まで続いている。中には、明らかに負傷している人もいた。 足を引きずっている者、顔色の悪い者、包帯を巻いたままの者―― 中には、立っているのがやっとという重傷者までいる。 ――一日だけ休んだだけで、これかよ……。俺は、思わず頭を抱えた。ここは病院じゃないぞ? 薬屋なんだけど……。「ミリア、病院は…

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   53話 新たな従業員と店の状況

     ……ん?ふと、思った。“相手を思いやる心”――それって、メイドさんの方じゃないか?俺が何も言わなくても、察して動いてくれて、 気を配って、空気を読んで、完璧に仕事をこなしてくれる。 ――それ、日本人の美徳そのものじゃん。 ……仲良くなれそうな気がする。 いや、なれ―― ……いや、ダメだな。仲良くしてたら、ミリアに怒られそうだ。あの子、笑顔で「ユウヤ様、最近メイドと仲がよろしいですわね♡」とか言いながら、 内心でバチバチに嫉妬してそうだし。 ――うん、やめとこう。 俺の平穏のためにも。「今日のご予定は?」ミリアが紅茶を一口飲みながら尋ねてきた。「お店に行かないと不味いよね。昨日は休みにしちゃったし」「そうでしたね……」ミリアは少し疲れた表情を浮かべながら、メイドを呼んだ。 王都との往復や、連日の緊張のせいか、少し疲れが出ているようだった。「従業員の方の用意は出来ているのですか?」「はい。勿論でございます」メイドは即座に答えた。「え? もう?」俺は思わず声を上げた。 こんなにも早く手配が完了しているとは思っていなかった。「従業員は、国王陛下のご紹介と、わたくしの使用人の中から選びましたの。 優秀で、信用できる方々ばかりですわ」ミリアは自信満々に微笑んだ。 ――さすが、抜かりないな。でも、ふと思い出した顔があった。 昨日、怪我をした女性護衛――あの人、少し無理してたように見えた。「それなんだけどさ。 女性の護衛の人、店の従業員になりたいと思ってないかな?」俺がそう尋ねると、ミリアは少し意外そうに目を瞬かせた。「さぁ~、どうでしょうか。&he

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status